大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)60号 判決

原告 伊藤冨士夫

右訴訟代理人弁護士 長尾悟

被告 八尾税務署長 田岡重胤

右指定代理人 白石研二

〈ほか三名〉

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六二年六月二五日付けで原告の昭和六〇年分の所得税についてなした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(賦課決定処分については同年九月一一日付け変更決定後のもの)を取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、自転車及び自動二輪車の小売業を営む者であるが、昭和六〇年分の所得税について原告のした確定申告並びにこれに対する被告の更正処分(以下、「本件更正処分」という。)、過少申告加算税賦課決定処分及び同賦課決定処分に対する変更決定の内容は、別表1記載のとおりである。

2  しかしながら、本件更生処分は、原告が、昭和六〇年六月二四日、その所有に係る別紙物件目録一1及び2記載の各土地(以下、「土地一」、「土地二」といい、これらを合せて「本件土地」という。)並びに同目録一3記載の建物(住居表示大阪府松原市新堂三丁目九番三号。以下、「本件建物」といい、本件土地と合せて「本件物件」という。)を林仁及び林公子に二九〇〇万円で譲渡したこと(以下、「本件譲渡」という。)につき租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下、「措置法」という。)三五条一項の適用を認めなかった違法があるから、本件更正処分を前提とする過少申告加算税賦課決定処分(但し、前記変更決定後のもの。以下「本件決定」という。)も違法である。

3  よって、原告は、本件更正処分及び本件決定(以下、これらを合せて「本件各処分」という。)の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。同2のうち、原告が本件譲渡をしたこと及び被告が本件譲渡について措置法三五条一項の適用を認めなかったことは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1  被告は、以下の理由により、本件譲渡について措置法三五条一項の適用を認めなかったものである。

(一) 居住用財産の譲渡所得の特別控除を規定した措置法三五条一項及びその細目を定めた同法施行令(昭和六三年政令第七三号による改正前のもの、以下「施行令」という。)二三条一項は、居住用財産を譲渡した場合には代替の居住用財産を取得する蓋然性が高いこと及び通常の居住用財産であれば特別控除額の範囲内で取得できるであろうとの配慮から、所得税の負担を軽減して居住用財産の取得を容易にするものである。そして、措置法三五条一項が右特別控除について連年の適用を認めず三年間に一度しか適用を認めないのは、取得した居住用財産を三年程度の短期間に譲渡することは通常考えられないことから、右制度を濫用し譲渡益の脱漏を計る等の弊害が生ずるのを防止するためである。さらに施行令二三条一項は、措置法三五条一項の右趣旨に照らし、一の主たる居住用財産の譲渡についてのみ右特例を認めるとして、その適用を制限している。

したがって、以上の点に鑑れば、措置法三五条一項は、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠とし、現に居住の用に供している家屋を譲渡した場合、又は譲渡時に近接する時期までこれを生活の本拠として居住の用に供しており、譲渡に至るまでの期間及びその間の使用からみて、居住の用に供していると同視しうる場合に限り適用されるものであり、右「居住の用に供している家屋」に該当するかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的その他の事情を総合勘案して判定すべきものである。

(二) 原告は、本件譲渡当時、本件物件の他、別紙物件目録二記載の建物(住居表示大阪府松原市柴垣一丁目六番二八号。以下、「柴垣の建物」という。)及び同目録三記載の不動産(住居表示大阪府松原市新堂三丁目三番二〇号。以下、建物については「乗物センター」、土地については「土地三」という。)を所有していたが、これらの不動産の所在及び利用状況は、次のとおりである。

(1) 柴垣の建物と乗物センターとは道路をはさんで斜め向かいに位置し、本件物件と柴垣の建物及び乗物センターとは直接距離にして二〇〇ないし二五〇メートル離れており、それぞれ独立した居住用家屋であった。

(2) 原告、原告の妻伊藤八千子(以下、「八千子」という。)及び原告の子ら五名の住民票記載の住所の変遷は、別表2記載のとおりであり、原告が本件建物の所在地を住所として登録していた期間は、本件譲渡直前の一年五か月に過ぎない。

(3) 原告が被告に提出した原告の昭和五八年分及び昭和五九年分の所得税の確定申告書では、確定申告時及び各年度の一月一日時点における原告の住所は、それぞれ柴垣の建物の所在地とされていた。

(4) 本件建物及び柴垣の建物の電気の使用量は、それぞれ別表3及び4記載のとおりであり、本件建物の電気の使用量は、柴垣の建物のそれ及び大阪府の一世帯平均の毎月の電気の使用量に比して極めて少ない。

(5) 柴垣の建物の水道の使用量は、別表5記載のとおりであるが、他方、本件建物の水道は、昭和五五年四月三日から昭和六〇年七月八日まで閉栓されていた。

(6) 本件建物では、昭和五九年一月から昭和六〇年七月までの間ガスは使用されていない。

(三) 以上の事実に照らせば、原告は、本件譲渡当時柴垣の建物を居住の用に供し、乗物センターの一階部分で自転車及び自動二輪車の小売業を営んでいたことは明らかであるから、本件建物は措置法三五条一項に定める「居住の用に供している家屋」には該当せず、このことは、仮に原告が本件建物を居住の用に供していたとしても同様である。

2  原告の昭和六〇年分の分離長期譲渡所得金額及び分離短期譲渡所得金額は、別表6記載のとおりであり、各項目の算出根拠は、以下のとおりである。

(一) 収入金額

原告は、土地一を昭和三六年四月二八日に、土地二を昭和五〇年九月八日に各売買により、また本件建物を昭和四二年九月一七日に相続によりそれぞれ取得したから、土地一及び本件建物の譲渡は、措置法三一条一項所定の長期譲渡に、土地二の譲渡は、同法三二条一項所定の短期譲渡にそれぞれ該当する本件譲渡に係る譲渡代金は二九〇〇万円であるところ、本件建物は昭和三七年一月二日に建築されたものであるからその譲渡価値を〇円とし、右譲渡代金を土地一及び土地二の各公簿面積の比率で案分することにより、本件譲渡に関する長期譲渡及び短期譲渡に係る収入金額を算出したものである。

(二) 取得費

(1) 長期譲渡に係る取得費

概算取得費(措置法三一条の四第一項、措置法関係通達三一の四―一)で、右(一)の長期譲渡に係る収入金額に一〇〇分の五を乗じた額である。

(2) 短期譲渡に係る取得費

原告は、土地二を中田茂から取得する際に売買代金九二万五二〇〇円を支払った。

(三) 譲渡費用

原告は、本件譲渡に関して昭和六〇年六月二四日に司法書士に六万三五八〇円を支払い、売買契約書に収入印紙二万円を貼付したが、被告は、右司法書士に支払った金額のうち売渡に係る書類作成の報酬九四〇〇円と右印紙代の合計二万九四〇〇円は譲渡費用として前記(一)と同様の案分を行い、長期譲渡及び短期譲渡に係る譲渡費用を算出したものである。

(四) 特別控除額

措置法三一条一項、三項に基づく特別控除額である。

3  以上のとおり、被告主張の範囲内で原告の分離長期譲渡所得金額及び分離短期譲渡所得金額を認めた本件更正処分並びにこれを前提とする本件決定に違法はない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1について

(一) 同冒頭部分の主張は争う。

(二) 同(二)について

(1) 同冒頭部分のうち、原告が本件譲渡の当時本件物件、柴垣の建物、乗物センター及び土地三を所有していたことは認め、その余は争う。

(2) 同(1)ないし(3)の各事実は認める。

(3) 同(4)のうち、本件建物及び柴垣の建物の電気使用量が被告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

(4) 同(5)の事実は認める。

(5) 同(6)の事実は否認する。

(三) 同(三)の主張は争う。

2  被告の主張2について

(一) 同冒頭部分の主張は争う。

(二) 同(一)のうち、原告が本件物件を取得した経緯及び本件建物の建築時期は認め、その余は争う。

(三) 同(二)(1)のうち、被告が長期譲渡に係る収入金額に一〇〇分の五を乗じた額を右譲渡に係る取得費としたことは認める。同(2)の事実は認める。

(四) 同(三)のうち、原告が本件譲渡に際し、被告主張の報酬及び印紙代を支出したことは認め、その余は争う。

(五) 同(四)の事実は認める。

3  被告の主張3は争う。

五  原告の反論

1  原告が本件建物に居住していた事情及び本件物件を譲渡した事情は、次のとおりである。

(一) 原告は、幼少の頃から柴垣の建物に居住し、昭和二九年から右建物において自転車小売業を営んできたが、昭和三一年に八千子と結婚し、柴垣の建物において原告の両親とともに居住し、八千子は右建物の一部で美容院を経営していた。

その後、八千子と原告の両親との折合いが悪くなったので、原告は、昭和三六年に土地一を取得し、翌年には本件建物を建築し、両親を居住させた。その後、父は昭和四二年九月に、母は昭和五四年一一月にそれぞれ死亡し、本件建物は、同月以降しばらく空き家になっていた。

(二) 原告は、昭和四四年に柴垣の建物の筋向かいの土地三を取得し、右土地に乗物センターを建築し、これを柴垣の建物とともに自転車及び自動二輪車の小売業に供するようになった。しかし、原告は、この頃から八千子と不和になったため、昭和四五年一二月頃からは、乗物センターの二階を居宅として使用するようになり、八千子はそのまま柴垣の建物を住居として美容院を経営し、原告と八千子とは、今日に至るまで別居状態にある。

こうして、原告は、乗物センターの二階を住居として昼間は柴垣の建物の一部及び乗物センターで営業をしていた。しかし、原告の長男が結婚し、乗物センターの二階に居住することとなったため、原告は、昭和五八年五月に乗物センターから前記のとおり当時空家となっていた本件建物に転居し、昭和五九年一月三〇日には住民票記載の住所を柴垣の建物の所在地から本件建物の所在地に移転した。

(三) 原告は、昭和五八年頃から三好幸子(以下、「三好」という。)と交際するようになったが、同女が前夫等から脅迫等を受けていたため、同女宅に宿泊することが多くなった。そして、原告は、昭和五九年四月頃からは、結婚を前提として三好と本件建物で同居するようになり、昼は柴垣の建物や乗物センターで仕事をし、夜は同女と本件建物で起居し、同女が早朝本件建物に近接した同女宅で朝食を作って再び本件建物に戻り、二人で朝食をとるという生活を続けた。

本件建物の昭和五九年四月以前の電気使用量は、被告主張のとおり少量であるが、それは、右のとおり三好宅で泊ることが多かったためであり、同女と同居を始めた同年以降は、毎月原告と三好が居住するのに最小限必要な一定の電気が使用されていた。また、原告及び三好は、本件建物の水道を使用しており、ガスについては、同女の知人から購入したプロパンガスを使用していた。

(四) その後、原告は、三好の依頼に応じて同女の娘の結婚資金として約一三〇〇万円を借入れて三好に貸与したが、同女からの返済が遅れ右借入金の返済に窮したため、やむなく本件譲渡をしたものである。

(五) 原告は、本件譲渡後、住民票記載の住所を本件建物の所在地から柴垣の建物の所在地に移転したが、柴垣の建物に居住する意思も居住の実体もなく、昼間は乗物センター等で仕事をし、夜間は三好宅で過ごし、その後、昭和六一年五月に原告肩書住所地所在のマンションを取得し、同年九月に入居して現在に至っている。

なお、原告の確定申告書記載の住所が柴垣の建物の所在地とされていたのは、原告が確定申告を知人の税理士に任せた際、原告の当時の生活状況を説明しなかったために当時の住民票記載の住所がそのまま記載されたことによるものである。

(六) このように、原告は、柴垣の建物には居住の意思も居住の実体もなく、また乗物センターは仕事場で、住居とはいえないから、本件譲渡当時原告が生活の本拠として利用していた家屋は本件建物である。

2  したがって、本件各処分は違法である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分の適否につき検討する。

1  措置法三五条一項は、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得につき一定額の特別控除を認めているが、その趣旨は、居住用財産を譲渡した場合には代替の居住用財産を取得する蓋然性が高いこと及び通常の居住用財産であれば右の特別控除額の範囲内で取得できるものとの配慮から、特に所得税の負担を軽減し、居住用財産の取得を容易にすることにあるものと解される。そして、右条項が右特別控除について連年の適用を認めず三年間に一度しか適用を認めない趣旨は、取得した居住用財産を三年程度の短期間に譲渡することは通常考えられないことから、右制度を濫用し譲渡益の脱漏を計る等の弊害が生ずるのを防ぐことにあり、また、同条項にいう政令である施行令二三条一項が、「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする。」旨規定し、右制度の適用を限定しているのは、右制度の趣旨に照らし、このような特別控除はその主たる居住用財産の譲渡にのみ認めれば足りるものとして、その濫用を防ぐ趣旨であると解される。

このような右特別控除制度に関する規定の内容及びその趣旨に照らすと、措置法三五条一項にいう「居住の用に供している家屋」とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋をいい、一時的な目的で短期間臨時に使用する家屋等はこれに当たらないと解するのが相当である。そして、当該家屋が継続して生活の本拠とされていたかどうかの判断は、その者及び社会通念上その者と同居することが通常であると認められる配偶者等の日常生活の状況、当該家屋への入居の目的、当該家屋の構造及び設備の状況その他諸般の事情を前記の特別控除制度の趣旨に沿って総合勘案して行われるべきものである。

2  そこで、本件建物が前記「居住の用に供している家屋」に該当するかどうかを検討する。

(一)  《証拠省略》を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告は、本件譲渡当時本件建物、柴垣の建物及び乗物センターの各建物を所有しており、柴垣の建物と乗物センターとは道路をはさんで斜め向かいに位置し、本件建物と柴垣の建物及び乗物センターとは直線距離にして二〇〇ないし二五〇メートル離れていた(右事実は、当事者間に争いがない。)。

(2) 原告は、幼少の頃から柴垣の建物に居住し、成人後は右建物の一部で自転車及び自動二輪車の小売業を営んできたが、昭和四四、五年頃に土地三を購入し、同四五年末頃、その上に店舗用に乗物センターを建築し、柴垣の建物とともに自転車及び自動二輪車の小売業に供するようになった(原告が柴垣の建物及び乗物センターで自転車及び自動二輪車の小売業を営んでいることは、当事者間に争いがない。)。

(3) 八千子は、昭和三一年に原告と結婚後柴垣の建物の一部で美容院を経営し、現在に至るまで右建物を店舗兼住居として利用しており、住民票記載の住所も昭和三一年以降柴垣の建物の所在地としている(八千子が昭和三一年以降柴垣の建物の所在地を住民票記載の住所としていることは、当事者間に争いがない。)。

(4) 原告は、昭和三六年四月二八日に土地一を購入し、翌年には本件建物を建築し、一時原告の両親を居住させていたが、両親が死亡した昭和五四年以降は一時他人に貸したりしたことはあったものの、自らはしばらく本件建物に居住していなかった(原告が昭和三六年四月二八日に土地一を購入し、その翌年に本件建物を建築したことは、当事者間に争いがない。)

(5) 原告は、遅くとも昭和五八年頃には、三好と交際するようになり、その頃から昼間は乗物センターや柴垣の建物で営業を行い、夜間は同女宅や本件建物を使用したりするようになった。そして、原告は、その後、昭和五九年三、四月頃から昭和六〇年半ば頃までは夜間には三好とともに本件建物を使用することが多かった。しかし、原告は、本件建物で食事を作ることはほとんどなく、夜間も三好宅で過ごす時間が多く、本件建物ではほとんど寝起きをする程度であった。また、本件建物は、電気及び水道が敷設されていたものの、都市ガス、風呂及び電話の設備はなく、水道も昭和五五年四月から昭和六〇年七月まで閉栓扱いとなっていて料金が徴収されておらず、昭和五八年から昭和六〇年までの電気の使用量も別表3記載のとおりであり、大阪府の一世帯の一か月の平均使用量約二八〇キロワットに比較して著しく少なかった。また、原告はプロパンガスによるガスの供給を受けていたが、その使用状況は明らかではない(本件建物の水道が昭和五五年四月から昭和六〇年七月まで閉栓扱いとなっていたこと及び昭和五八年から昭和六〇年までの本件建物の電気の使用量が別表3記載のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。)。

(6) 前記のとおり、原告は少なくとも三好と交際するようになって以降は、八千子との間の夫婦関係が相当形骸化していたものの、原告と八千子は離婚を求める調停を申立てたこともなく、いずれも柴垣の建物で店舗を構えて営業活動を行っていた。また、原告は、隣近所に対し、八千子との関係が円満ではないことや三好との交際及び本件建物の使用等を秘していたうえ、原告の住民票記載の住所は、昭和五九年一月から昭和六〇年六月まで本件建物の所在地であったものの、それ以前は出生時から柴垣の建物の所在地であり、昭和六〇年六月からは、再び柴垣の建物の所在地に戻った。原告は、その間一貫して、前記のとおり柴垣の建物及び乗物センターを店舗として営業をしていたほか、柴垣の建物で民生委員、町内会等の地域活動をしており、原告宛ての郵便物も柴垣の建物に配達されていた(原告の住民票記載の住所の移転状況は、当事者間に争いがない。)。

(7) 原告は、昭和六〇年五、六月頃、原告が三好の娘の結婚資金のために他から借入れて調達した一三〇〇万円の返済に窮したことから、右債務の弁済資金を捻出するために本件譲渡をした(右譲渡は、当事者間に争いがない。)。

その後、原告は、昭和六一年中頃に原告肩書住所地所在のマンションを購入し、住民票記載の住所も右住所地に移転したが、原告は右(6)と同様営業活動や地域活動の拠点等として柴垣の建物を利用しており、また、八千子は引続き柴垣の建物に居住している(右のとおり、住民票記載の住所が移転されたことは、当事者間に争いがない。)。

(二)  以上の事実を総合すれば、原告は、昭和五八年頃から昭和六〇年中頃までの間は、本件建物で夜間就寝していたこと等は認められるものの、右使用をもってはいまだ原告が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていたものとは認められない。

なお、《証拠省略》中には、原告が右期間中本件建物に居住していたとの記載があるが、前記認定事実に《証拠省略》をも考え合わせると、右の各記載から直ちに本件建物が原告の日常生活の本拠であったとは認められず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  よって、本件譲渡については、措置法三五条一項は適用されない。

3  本件各処分の適法性について

(一)  原告の昭和六〇年分の事業所得の金額(総所得金額)が九七万二五八三円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  分離長期譲渡所得について

(1) 原告が土地一を昭和三六年四月二八日に取得したこと、本件建物を昭和四二年九月一七日に取得したこと及び本件譲渡に係る譲渡代金が二九〇〇万円であることは、いずれも当事者間に争いがない。

右によれば、土地一及び本件建物の譲渡は、措置法三一条一項所定の長期譲渡に該当するところ、本件建物が昭和三七年一月二日に建築されたことは当事者間に争いがないから、その譲渡価値は〇円とみるべきであり、また、本件譲渡は土地二の譲渡も含んでいるから、原告の長期譲渡所得に係る収入金額は、本件譲渡に係る右譲渡代金を本件土地の公簿面積のうち土地一が占める割合で案分して算出すべきである。これによると、原告の長期譲渡に係る収入金額は、二三〇六万八三四〇円となる。

(2) 被告が長期譲渡に係る収入金額に一〇〇分の五を乗じた額を長期譲渡に係る取得費としたことは当事者間に争いがないが、前記認定の土地一及び本件建物の状況並びに右収入金額に照らすと、右の取得費の額は、取得費として正当と認められる。

したがって、土地一及び本件建物の長期譲渡に係る取得費は、右(1)の額の一〇〇分の五に相当する一一五万三四一七円である。

(3) 原告が本件譲渡に際して被告の主張2(三)のとおり、書類作成の報酬九四〇〇円及び収入印紙代二万円を支出したことは当事者間に争いがないが、右は本件譲渡に係る譲渡費用と認められる。

したがって、土地一及び本件建物の長期譲渡に係る譲渡費用は、右二万九四〇〇円について前記(1)と同様公簿面積に従った案分をして算出された二万三三八七円とみるべきである。

(4) 措置法三一条一項、三項によると、長期譲渡に係る特別控除額は一〇〇万円である。

(5) よって、原告の昭和六〇年分の分離長期譲渡所得金額は、二〇八九万一五三六円である。

(三)  分離短期譲渡所得について

(1) 原告が土地二を昭和五〇年九月八日に取得したことは、当事者間に争いがない。

右によれば、土地二の譲渡は、措置法三二条一項所定の短期譲渡に該当するところ、前記のとおり本件譲渡に係る譲渡代金二九〇〇万円のうち、長期譲渡に係る譲渡代金は二三〇六万八三四〇円であるから、短期譲渡に係る譲渡代金は、五九三万一六六〇円である。

(2) 被告の主張2(二)(2)前段の事実は、当事者間に争いがないが、右は短期譲渡に係る取得費として認められる。

(3) 本件譲渡に係る譲渡費用が二万九四〇〇円であること及び長期譲渡に係る右費用が二万三三八七円であることはいずれも前記のとおりである。

よって、短期譲渡に係る譲渡費用は、六〇一三円である。

(4) したがって、原告の昭和六〇年分の分離短期譲渡所得金額は、五〇〇万〇四四七円である。

(四)  このように、右の計算額の範囲内においてなされた本件更正処分は適法であるから、これを前提とする本件決定も適法である。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 田中敦 黒野功久)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例